はじめに
虫歯治療の流れはう蝕象牙質を除去して歯の形を元に戻すとい基本的な考え方があります。しかし、虫歯に感染したう蝕象牙質の除去の方法や用いる器材にもいくつもの方法があり、う蝕象牙質を除去する基準にも様々な考え方があると思います。
今日はむし歯治療における軟化象牙質の除去において現在私が実践している考えや器材について説明します。
基本的には日本保存学会の提唱するう蝕治療ガイドラインにのっとって治療を行ってます。
MIの定義
国際歯科連盟(FDI)は2002年に声明としてMinimal Intervention(MI)の概念を提唱しています。
FDI POLICY STATEMENT(Vinenna,Austria,2002)
①口腔内細菌叢の改善
う蝕は感染症であることから、まず最も重要なことは感染のコントロール、すなわちプラークを除去し糖分の摂取を制限することが必要である。
②患者教育
患者にはう蝕の成り立ちを説明し、同時に食事指導と口腔清掃指導を通してみずからもう蝕リスクの低減を図る必要があることを説明する。
③エナメル質および象牙質のう蝕でまだう窩を形成していないう蝕の再石灰化
唾液は脱灰と再石灰化のサイクルにおいて重大な役割を演じているので量的および質的に評価されなければならない。エナメル質の白斑やう窩を形成していない象牙質う蝕はその進行が停止したり治癒したりすることが証明されている。したがって、そのような病変に対してはまずは再石灰化療法を行って経過観察すべきである、病変が拡大したかどうかが経過観察によって確認できるよう、病変の範囲は客観的に記録しておく必要がある。
④う窩を形成したう蝕への最小の侵襲
歯質を削るという外科的な介入はたとえば、う蝕の進行を停止させることができないう窩がある場合や、機能的あるいは審美的な要求がある場合に限るべきである。歯の切削に際しては極力天然歯質を保存するよう努め切削するのは破折しそうなエナメル質と感染した象牙質のみに限定すべきである。この切削操作には、状況に応じて手用器具、回転器具、音波・超音波装置、エアーブレーション装置、あるいはレーザー装置が用いられる。窩洞はほとんどの場合、感染した象牙質の広がり具合によって決まるので、一つひとつ違った形になりあらかじめ窩洞の形が決められるものではない。窩洞の大きさを最小限にすることで、グラスアイオノマーセメントやコンポジットレジンなどの接着性材料で修復することが可能となる。グラスアイオノマーセメントは中程度に脱灰した非感染象牙質の再石灰化を促すとするいくつかの報告はあるいが、この点についてはさらなる臨床研究が必要である。
⑤欠陥のある修復物の補修
修復物の除去においては結果として健全歯質もいくらかは削除することになるので窩洞のサイズが大きくなることは避けられない。臨床的判断に従い、それぞれの状況に応じて修復物全体を再修復する代わりに補修をするのも一つの選択である。
軟化象牙質除去【むし歯除去】に使用する機材
軟化象牙質の除去で用いられる器材はたくさんあります。部位や用途によって使い分けるようにしています。
スプーンネキスカベーターや低回転のラウンドバー、部位やアンダーカットの強い部分にはエアースケーラーを用いています。
歯質の硬さや色がう蝕象牙質の診断基準となります
硬いう蝕象牙質は柔らかいう蝕象牙質に比べ細菌数が有意に少ない。一方、濃く着色したう蝕象牙質を除去すると細菌感染のない「飴色」ないし「亜麻色」の透明層となる。よって鋭利なスプーンエキスカベータまたは低回転のラウンドバーを用い、歯質の硬さや色を基準にしてう蝕象牙質を除去することが推奨されています。【う蝕治療ガイドラインより】
う蝕象牙質の除去にう蝕検知液を使用すべきか
う蝕象牙質を削除するにあたりう蝕検知液の染色性を指標にすることは除去すべきう蝕病変部を識別する上で有用である(1%アシッドレッド・プロピレングリコール溶液)。よってう蝕象牙質の除去にう蝕検知液の使用を推奨されています。
ほぼ全ての症例でう蝕検知液を使用しています。
深いむし歯の歯髄保護
コンポジットレジン修復に裏層は必要か?
露髄(歯髄の露出)はしていない深い窩洞を確実な接着によってコンポジットレジンで修復した場合、裏層の有無は術後の歯髄症状の発現に影響を及ぼさない。よって深在性う蝕に対するコンポジットレジン修復に裏層は必要ないと考えられています。
ポイントは露髄がないということです。露髄の可能性がある深いむし歯へは対応が別途必要になります。
むし歯治療後の痛みについて
1960〜70年代において裏層なしでコンポジットレジン修復を行うと歯髄刺激が出現すると報告されレジン材料の化学的毒性が懸念されました。
現在では技術革新によりレジンの接着性や辺縁封鎖性が向上したことにより細菌侵入を排除した窩洞においてレジンの成分を個々に塗布した実験から成分自体の歯髄刺激は軽微であることが確認され、また接着性レジンから溶出した細胞毒性を示す構成成分を混合するとその毒性は軽減されることも明らかにされました。
さらに、コンポジットレジン修復時の象牙質エッチングの刺激は軽微で一過性であり、歯髄に炎症が発生する主な原因は細菌侵入に代表されるレジンの辺縁微小漏洩であることも確認されています。
むし歯治療後の痛みが出る理由については以下が考えられます。
- 接着がうまくいっていないことによる痛み
- 不適切な裏層を行なったことで辺縁漏洩が起こったことによる痛み
- むし歯が取りきれていないことによる痛み
- 歯髄に近接したことによる痛み
- 露髄していることによる痛み
虫歯除去からコンポジットレジン修復をまとめた動画をご覧ください
出来るだけエナメル質を保存しながらう蝕象牙質を除去しています。
途中う蝕象牙質の除去の確認のためカリエスチェックと呼ばれる赤い染め出し剤で染め出しながら虫歯の取れ具合を確認しています。
今回修復位に用いた方法はコンポジットレジンによる直接修復です。
かなり虫歯は深かったですが露髄は無く接着を確実にするため裏層は行いませんでした。また、重合収縮を防ぐために積層充填を行いながらアンダーカット部まで充填しています。